大森元気/残像のブーケの制作日誌

カテゴリから時期別・内容別に検索できます。スマホ版では非表示ですがアドレスバーの「あぁ」をクリック→「デスクトップ用Webサイトを表示」を選択するとPC表示になり検索可能になります(iPhoneの場合)。

モザイクのようにアレンジすること~吉田拓郎ミックス違いベスト盤での発見 (2020.1.21-1.25)

f:id:kitakamadays:20200709130151j:plain
画像引用元:TOWER.jp

1.21 (火)

アダチ君に返信。「ぼくの愛する暮らし」正月に追加録音したマンドリンの抜き差し(ブロックごとにオンにしたりミュートしたり)を再修正依頼。合わせて音色も調整してもらう。やはり楽器が多すぎて飽和している。3本のアコギ1本減らそうかな(あまり変わらないか)


1.22 (水)
◆サブスクを有料版に
無料版で使っていたSpotifyを有料版にした。Spotifyの場合、無料版と有料版で聴ける曲の数は同じだが、シャッフルでしか聴けないとか広告が入るなどの制限があったので負けるみたいで悔しかったけど(笑)有料にした。

CDリッピング派だった僕がサブスクを導入したのは去年の春に乃木坂46にはまったことがきっかけだったが(収録曲がちょっとずつ違うバージョンが複数発売されたりして集めきれないし、突然アイドルにハマった照れもあった笑)、ヘビロテしまくる時期を越えてきて、乃木坂以外にも最近のアーティストを色々聴き始めたり、今まで聴いてきた古いアーティストを聴き直したり、買うまでいかなかった作品などを聴いたり。サブスク、導入してみると本当に素晴らしいな。

そんな中でも吉田拓郎の91年ベスト盤「LIFE」を25年ぶりくらいに聴いて衝撃を受けたので少し書いておきたい。

open.spotify.com

◆新ミックス多数の拓郎ベスト盤『LIFE』
この2枚組ベスト盤は他のベスト盤と違い、なんと多数の曲が海外エンジニアによる新ミックスで収録されているのだ。

中でも「明日に向かって走れ」と「どうしてこんなに悲しいんだろう」は衝撃を受けた。この2曲は個人的にかなり聴き込んでいるというのもあるが、今まで聴こえなかった音がたくさん聞こえてまるで別テイクを聴いている感覚にすらなる。

特に駒沢さんのペダルスチール。旧mixは細かく上げ下げされていたのか、あるいは部分部分で消してあったのか? 初めて聴くフレーズがどんどん聴こえてくる。

ミュージシャン目線で邪推するに(あくまでも予想だが)、当時はベーシックは「せーの」で録っていたはずだから、ドラム・ベース・エレキ・鍵盤(ピアノ・オルガンのどちらか)の4パートを同時に録り、残る鍵盤とどちらが先かは分からないが後で駒沢さんのペダルスチールを録ったのではないかと思う。現場に呼ばれた駒沢さんが曲に合わせて(多分多めに、そしてわりと自由に)いろいろ弾いたものを後から差し引きしてミックスしていったのではないか?と思う。


◆理想のサウンドとアレンジの妙
この2曲はともに1975年の『明日に向かって走れ』というアルバムに収録されている。このアルバムと1つ前の『今はまだ人生を語らず』、そして時代は下るが91~92年のデタント』『吉田町の唄』『ロンサムトラベリンマン』あたりのアルバムは僕のここ10年くらいのアレンジのお手本のようにしていたアルバムだ。

ドラム・ベースがファンキーかつタイトで、エレキギターやピアノ・オルガンなども抑制を効かせた職人的なプレイ。そこにアコギ・マンドリン・ペダルスチール・アコーディオンなどアコースティック楽器が多数重ねられ絡み合う。

『今はまだ~』がもともとザ・バンドに演奏を依頼する話が途中まで進んでいたというエピソードがあるがそのことからもわかるとおり、その方向性を意図しているのだろう。

あまり細かいことを決めずにセッションしているような、ある程度自由な感じで演奏しているのだが、誰かが目立ちすぎることもなく「それぞれの仕事をしている」といった趣き。

ザ・バンドの作品は楽器数的には多くない。が前述の拓郎氏のアルバムは楽器も多いから普通だったらうるさくて、フレーズもぶつかってカオスになってしまうのだが、それが絡み合い、重なりあって1つの楽曲を作っているのは本当に凄いなと。理想だなと聴くたびに思うのだ。


◆自由なセッションに聴こえてモザイクのようにアレンジされている
今回の発見で、その謎の一端が解けた気がした。つまりはミュージシャン達も出るところと引くところをわきまえて職人的に演奏しているのはもちろんだが、それに加えてミックスのときにも精密な抜き差し作業があったということなのではないか。

この推測が正しければ、自由にセッションしている風に聴こえて、実はあとからアレンジして交通整理をしていたと。ここは残して、ここは引っ込めてというように、言わばモザイクのような感じ。

僕の今回のレコーディングでも、どんどん楽器が増えていった曲が何曲もあり、そういう作業をしてきたところだった。重ねすぎということに罪悪感を感じながらも、必要なところは残したいし、あーでもないこーでもないと様々なパターンで抜き差しを試していた。

「もうその楽器全部いらないよ!」って誰かに(?)指摘される錯覚と戦いつつ、正解もどんどん見えなくなり苦闘していたが、その作業は間違っていなかったと。妥協策のつもりでやっていたけど積極的にやってよかったのだと背中を押された気がした。


◆好きなミックスはどちらか

というわけでこの拓郎ベストの件は本当に発見の連続でもっと早く買っておくべきだったなと。でも久しぶりに聴けたことで衝撃を受け、悩んでいるアレンジのヒントをたくさんもらえたので、このタイミングにも意味があったのかなと。

ちなみに、このベスト盤の新ミックスと、聴き馴染んだ旧ミックスとどちらが好きか?と聞かれたら、やはり旧ミックスと答えたい曲が多い。新ミックスもカッコいいものはもちろんあるけど。

歌を邪魔してないというか。初出のミックスと後から出すリミックスでは作業の意味合いも、求められているものも違うからどちらが良いとかでは勿論ないのだけど。

でも今自分は楽器が多い曲を前にし「あれが聴こえない、これが聴こえない」となりがちだけど、拓郎氏のベスト盤で再発見をたくさんし、聴こえないパートが多々あった旧ミックスのほうが好きだと思う自分がいて。ああ、「全部を聴かせること」は「気持ちよく聴かせること」とは違うのだなという発見もあった。


1.25 (土)
「恋のはじめ〜」
ホーン、仮だったものを整えた後リアンプ。
ボーカルとピアニカ、アコギのテイク編集。アダチ君に送る。