大森元気/残像のブーケの制作日誌

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【最終回】4年半もかかった10の理由 ~ あとがき

さて今回で最終回です。4年半連載してきました。読んでくださった皆様ありがとうございました。読みにくい文章だったかと思います....。お疲れ様でした(笑)

日誌的な内容はすでに前回で終えておりまして、今回はなぜこんなに時間がかかったのか?ということを書いておこうかなと。

 

4年半もかかった10の理由

【理由1】構想の変更、曲を追加していった
いろんなところで言及しましたが、最初はミニアルバムの予定でした。バンド曲は2曲くらいであとは宅録。2017年の12月に録音を始めて3か月くらいで出来たらいいなと。それが紆余曲折を経て、コンセプトを変え、曲数も増えていきました。

最初は当時住んでいた北鎌倉の空気感を詰め込んだ地味なミニアルバムの予定でした。それをやめたのは、第1に、完成目標としていた2018年4月のバースデーイベントに間に合わなそうだ、となったこと。(代わりに自主でベスト盤をリリースしました)

第2に、自分のテーマソングとも言える「ぼくの愛する暮らし」を書いていた時期で、ドラム録りの日にぎりぎり間に合わなかった。直後に完成するのですが、ドラム録りの日程を追加してでも収録したいと思ったこと。で、せっかく追加日を設けるのなら3曲くらいお願いしたいと。

さらに曲を並べてみると「こういう要素も欲しい」「あの曲を入れたら流れやバランスが良くなる」となっていって、数回にわたって追加していくことになりました。まとめて追加したならもうちょっと効率的だったでしょうが、2~3曲ずつを3回くらいに分けて追加していったこともさらに長引かせる要因となりました。

そんな変遷の中で、「北鎌倉感」というコンセプトはやめ、自分の得意な要素を全部入れ込んだような「渾身のフルアルバム」を作ることにしたのでした。


【理由2】曲を作りながらのREC
曲を増やしていったことにも関係しますが、出来てない曲があって、RECやEDIT作業をしながら曲作りもしていました。

ほぼ完成してるのにたった1か所だけ決まらずに2か月考え続け、結果お蔵入りになった曲とかもありました。ほかにも「恋が終わってしまった」などは元々の歌詞を全面的に見直して尺が倍近くになりました。


【理由3】打ち込みの導入
打ち込み(MIDI)を活用しました。1つ前のアルバム(2013年)まではPCは使っていたものの打ち込みは導入していませんでした。(ただし簡易的なものやデモ制作時の生演奏の代わりとしては別の機材で導入済み)

バンド「花と路地」を休止した2014年頃にPerfumeに突然ハマったことがきっかけで打ち込みを習得。そのときマイブームの濁流に思いっきり身を任せて(笑)「突然どうしたの?」と恐らく思われていたでしょうがダンスミュージック系の作品を何曲か発表し、そして気が済んで(笑)元の音楽性に戻っていきました。

戻って来はしましたが、打ち込みのテクニック自体は生っぽいアレンジでも最大限活用できます。そういった意味では当時の、周りからみたら無茶とも思えるマイブームも無駄ではなかったんですね。

今回ストリングスの打ち込みが2曲あったのでとにかく大変でした。(アルバムには1曲のみ収録、もう1曲はシングルVerのみのMixに使用)ストリングスはアレンジ自体も難しいし、抑揚を細かく設定しないとキーボード感が出てしまうので。

そのほかリアルタイムで演奏した鍵盤やシンセ類も大森担当分に関しては基本MIDIで。そのほうが修正したり、別のフレーズに作り変えたりすることも自由自在なので便利。と同時にいくらでも変えられるので時間は増えていきましたね。

 

【理由4】違うアレンジを気が済むまで試す
上記とかぶりますが、アレンジも随分試行錯誤しました。リズムを録ったあとでアレンジを考え直したり、一度できているのに全く別のアレンジを試した曲もありました。

例えばバンド演奏の暑苦しさが魅力の「恋は終わってしまった」ですが、4つ打ち+ストリングス(要するに当時ハマっていた乃木坂46的な)打ち込みバージョンも試作したりしました。今となれば馬鹿げたアイデアに思えるけど、思いついたアイデアは全部試して、「やっぱりこれじゃなかった」と納得してから決めていくということをしてみたかったのです。「boys & girls」とかも苦労して弾いたベースラインを全部やめて別のアプローチで弾き直したものを採用したりしました。エレキギターも普通の感じだとつまらないなということで膨大なテイクを試したり、一度完成したものを数か月して弾き直したりとかも色々しましたね。


【理由5】修正の鬼
打ち込みは、アレンジをあれこれ考えるというほかに、下手な演奏を修正するということにも活用できます。僕は鍵盤がそこまで得意ではありませんが、自分なりのイメージがあるものに関しては自分で弾きました。その際うまく演奏することよりも、とにかく音が濁ってもいいのでイメージやアプローチを優先してどんどん弾いていき、あとかミスタッチを直していくという方法を取りました。

打ち込みだけでなく生演奏パートも同様ですね。ベースも何曲か弾きましたが、本職ではないので何テイクも録ったり、部分的にやり直したり、そうやって聴ける演奏にしてます(ズルっぽくてすみません)


【理由6】予算
上記で書いた修正なんかは、例えばもっと人に頼むことができたなら省けた時間かも知れません。自分でイメージがあるものは仕方ないけれど、もう少し予算が確保できれば人に頼むパートを増やしてもっと時短になったかもしれません。安価でもやってくれると友人たちは言ってくれるのですが、若い頃はそれでずいぶん不義理をしてしまって反省しているので、やはり仕事に見合うお礼はしたいなというのが本音ですね。(とは言えあまりたくさんは払えていないですが、、)



【理由7】別活動
まず前提として現在の僕は音楽だけで食えていないので仕事をしなければなりません。昔はシフト自由のバイトだったけど今は違います。それから家族との時間もある程度確保が必要です(現状でも随分迷惑をかけました...)。それに加えて、残像カフェの再結成や、あがた森魚氏のサポート&RECが不定期で何回か。あと映画音楽の仕事もありました。

さらにコロナによる自宅パフォーマンスの流行、僕は少し遅れて始めましたが気軽にやりたいのにどんどんウエイトが増えていきましたね、、。前半(2020年)は楽器やコーラスを重ね、映像も複数を編集したりして手間がかかりました。後半(2021年)になると更新頻度増と時短を図るため完全弾き語りにし、撮影もスマホのみで完結するという縛りに変更して好転したかに思えましたが、だんだん練習とか撮り直しが増えていって結局かなりの時間が必要となってしまいました。

ただレコーディング自体はもう終わっていてアダチ君とミックスのやり取りをしている時期だったので、自分の作業を後回しにしてということではなかったです。それに色々勉強や修行になったので自分的には無駄ではなかったと。


【理由8】リモートでミックス
これは良し悪しで。これによって色んな環境で聴き比べることができました。またアダチ君の好意で、何十回もやり直しに応じてもらえました。ですがやはりこの方法は終わりが見えず、時間がものすごくかかりましたね。

アダチ君のスタジオに赴いて、そこで「OK!」と言えたらずいぶん早く済んだはずですが(昔はそういう方式でした)今回は自分の耳がそれをする勇気がなかったんですね。帰って聴いてみたら「やっぱり直したい」「あそこ気になる」となるのが目に見えていて、、。まあコロナもあったのでリモートを選びました。

いっそ僕は口出ししない!とかそこまで行けたら理想なんですけど、その勇気もまだ持てず、、。信頼していないということではないんです。録ったときに意図しているアレンジがあって、それがミックスでこう鳴っていて欲しいというのがあるので...。


【理由9】昔より優柔不断になった
ミックスに限らずですね。歌詞1つ、メロディーにしても、演奏時にテイクのOKを出すことや、アレンジ、CDジャケのデザイン(共同で行ないました)に至るまで、1つ1つの決定をすることが昔の何十倍、下手したら何百倍も慎重になっている自分に気づきました。

優柔不断になってしまったと片づけるのは簡単ですが、(1)可能性や選択肢を全部試してから決定したいという気持ちもあったし、(2)もっともっと良くならないか?別の答えはないか?と貪欲になったこと。それらは思い入れやこだわりが強まったゆえのことで悪いことではないような気もします。

あとは大人になって、(3)かつてのように気分や勢いで決めたくない、より冷静に判断したいと思うようになったこと。それから(4)知識や経験が蓄積された分、思いつく選択肢自体がかつてよりも増えたこと。(5)そのときベスト!と思っても時間が経つとそうは思えなくなるということを経験的に知った(6)自分は最高でも他人にそれが伝わるか分からない(7)ハードルがどんどん高まっていったので下手なものは作れないと気負っていった。などなど。

この分析に意味があるのかよくわかりませんが、それらのことが全部重なって極度の″決められない男”になってしまいました。昔も悩みはしてたんですが、決めるときは早かったんです。「はい決定!次!」みたいに行けたらカッコいいんですけどね苦笑


【理由10】ミックスのやり直し依頼
いろんな環境で聴き比べていたにもかかわらず、意図しないミックスが完成後に見つかりまして。日誌にも書きましたが、アダチ君のミスではなく、自分のイメージと違っていることに気づかなかったということですが。

イヤホンが壊れて別のヘッドホンを買ったことで聴こえ方が変わり偶然気づいたのですが、そのままで完成させてたらと思うと...。本当に奇跡でしたね...。

それでミックス(+該当曲のみマスタリングも)やり直してもらいました。そもそもミックスで「完成!」と伝えてから「やっぱりごめん」と言って修正依頼をするというのは何度となくあってアダチ君には本当に迷惑をかけました。

修正のついでに、ときには録り直したり、編集作業まで戻ったり、別のフレーズを考えたりということもしました。それで1~2か月とか余計にかかったり(それが何度か)ありました。

また、ミックスのあとの作業であるマスタリング(よしむらひらく君が担当)の段階まで行って「もっとこうしたい」という点があったときに、これはあるあるだとは思いますが、マスタリングであれこれやるよりもミックスまで戻って直したほうが早いということがあり。これは3人面識があったためスムーズに行きましたがそんなこともありました。

(追記)
あとパソコンが古いため異常に遅かったということもありました。一時期、1つの操作(本来タイムラグが0に等しい操作)で数十秒かかるという壊滅的な状況が続いたり、PCの起動自体しないというところまでいきました。ほかのPCを使用したり、OSを上げて悪化し、さらに上げて回復したり。。そんなことがありました。途中からはマシになったのでここに書き忘れてました。10の理由が11になっちゃいました苦笑

 * * *

というわけで一口に4年半かかったと言ってもこんなに理由がありました。
想像以上に好評だったアルバム。「時間をかけた意味がわかった」「必要だったんだね」といろんな人に言ってもらえましたが、確かに必要だったこともありました。でももうちょっと短縮できたこともありましたね。

次のアルバムをどういう形で作るのかは決めていません。けど、もし同じようなやり方でやるにしても、もう少しは縮められるんではないかと思っています。同じやり方なら2年か3年、、。まあ本音は半年くらいで完成させたいですけどね。

 

あとがき

■記録するということ

さて制作日誌、これで終わりです。2017年12月から約4年半。「日誌」という言葉のとおり、レコーディングからプロモーションまで、制作に関わることをすべて書いてきました。さらに制作以外のことでも、そのとき夢中になっていたことや、別の音楽活動とかも必要に応じて書いてきたので、本当にほぼ日記でしたね。

最初のほうはスタジオでメンバーとわいわいやったりとか、コラム的なものは読んでいて楽しんでもらえたかと思いますが、そういった時期を経て、最後のほうはアレンジ試行錯誤とか、ミックスがどうとか、地味な話が多くなってきて(苦笑)しかもリリースされる前にいろいろ書かれても「知らんがな!」となりそうで、読み物としてどうなの?と不安になっていきました。けどブログは別にあるし、もうここは開き直って興味ある人だけ読んでください!というスタンスで執筆し続けました。

4年半の全記録。長きにわたり隅々までこだわって作った作品。これがどういうふうに作られたのか。それを知りたい人がどれだけいるかは別として、どういう経緯で、どういう変遷で、そのときどんな気分で、何に夢中になりながら作ったのか。そういうことが全部読んでわかるようになっています。

全部読み返すことは自分でもないかも知れないけれど、興味のあるところだけとか、偶然どこかのページだけ読み返すことは今後あるでしょう。そのときに何かのヒントになるんではないかと思いますね。


■ライブで広めていくこと
残像のブーケは9月にバンド編成ライブを予定しています。昨日また1つ追加発表になりまして9月は2本です!

 音源頑張って完成させて、プロモーションも自分としては頑張ったので。あとはライブですね。ライブをどんどんやりながら広めていくことが大事だと思います。ネットや口コミの力は大きいけれど、やっぱり生のライブで感動してその場でCDを買ってもらうという文化はそう簡単にはなくならないと思います。


■次回作と新たな日誌?!
そして。次の作品もまた4年後と言わずどんどん作っていきたいと思います。アルバムは無理としても、早いうちに新たな音源を発表できたらと思っています。名作を書くことも大事だけど、コンスタントにリリースしていく大切さもわかっているつもり。あんまり空かないように頑張りますので、また気にかけてもらえたら嬉しいです。

最後の最後まで長くなっちゃいましたが本当にありがとうございました!日誌はいったん終了ですが、記録癖がついちゃってるので(実は下書きだけ続けている!)、まあここまで仔細に記録するかは別として、違った形ではまたやるかも知れませんね。ブログの一部として書くのが妥当かなあ。もしまた何らかの形で公開するときがあればそのときは懲りずにまた読んでもらえたら嬉しいです。

それではいったんお別れです。ありがとうございました!(通常のほうのブログは変更なく継続中です。今後はなるべく多めに更新していきますね)

レコーディングを始めたとき生まれた娘もお陰様で大きくなりました。